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静岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)8号 判決

静岡県庵原郡富士川町中之郷二五二八番地の四

原告

有限会社富士山麓不動産取引〓

右代表者代表取締役

深沢優

右訴訟代理人弁護士

佐藤久

大橋昭夫

右訴訟復代理人弁護士

白井孝一

伊藤博

静岡県清水市江尻東一丁目五番一号

被告

清水税務署長

右指定代理人

金沢正公

奥原満雄

阿部三郎

寺田郁夫

川村俊一

大西昇一郎

西村重隆

柳原国良

主文

被告が昭和四六年八月二〇日原告の昭和四三年一一月二五日から昭和四四年一〇月三一日までの事業年度分の法人税について更正及び重加算税の賦課決定のうち、所得金額三二一万八九八九円を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを八分し、その五を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が昭和四六年八月二〇日原告の昭和四三年一一月二五日から昭和四四年一〇月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  原告は昭和四三年一一月二五日設立され、不動産取引を業とするものであるが、昭和四三年一一月二五日から昭和四四年一〇月三一日までの事業年度(以下「本件係争年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対する被告の更正及び重加算税の賦課決定(以下、右更正を「本件更正」と、右重加算税の賦課決定を「本件決定」という。)並びに国税不服審査裁決の経緯は、別表一記載のとおりである。

二  しかし、被告がした本件更正は原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって、また、本件更正を前提としてされた本件決定も違法である。

よって、本件更正及び本件決定の取消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二  本件更正及び本件決定の適法性

原告の本件係争年度分の所得金額の計算内訳は、別表二記載のとおりであり、申告額に対する加算減算の根拠は次のとおりである。

1  「益金-売上」について減算した二〇八五万六二二六円について

原告会社の代表取締役深沢優は、昭和四三年一一月二五日原告設立に至るまで個人企業として不動産取引業を営み、静岡県富士宮市万野原新田西ノ原所在の一番堀団地の土地(以下「一番堀団地の土地」という。)を購入、造成、分譲してきたものであるが、原告は昭和四五年一月四日本件係争年度の確定申告に際し、一番堀団地の土地のうち原告設立前に既に売却した土地の売上及び売上原価も損益に算入した。したがって、別表三の〈B〉欄記載の三和土地開発植松郷博外九名に売却した合計一三三七万四六〇〇円が原告の本件係争年度の益金であって、その余は原告設立前に売却済の土地の売上金であるから、右売上金二〇八五万六二二六円を原告の申告額から減算した。

2  「益金-売上」について加算した三三〇〇万六五六〇円について

本件係争年度における土地の売却代金について、次のとおり原告の申告に脱ろうがあったので、脱ろう金額を加算した。

(一) 一番堀団地の土地の売却代金

別表三の〈B〉欄の売買について、原告の申告では別表三の「申告計上額(円)」欄記載の一〇件計一三三七万四六〇〇円とされているが、別表三の「被告が主張する取引額」欄のとおり一五八一万一六〇円であるから、売上脱ろう金額は二四三万五五六〇円である。

(二) 西の山の畑の売却代金

原告が昭和四四年六月二一日高橋芳男に売却した富士宮市大中里字西の山二〇九五の一二畑八畝一六歩(以下「西の山の畑」という。)の売却代金は、原告の申告では一〇〇万円とされているが、一二〇万円であるから、売上脱ろう金額は二〇万円である。

(三) 山宮の山林の売却代金

原告が昭和四四年七月三一日斎藤清及び串田明久の両名に売却した富士宮市山宮三七六〇番の山林三町七反九畝二一歩(以下「山宮の山林」という。)の売却について、原告の申告では高橋洋に二六一二万九〇〇〇円で売却したとされているが、斎藤清及び串田明久に合計五六五〇万円で売却したのであるから、売上脱ろう金額は三〇三七万一〇〇〇円である。

3  「益金-雑収入」について加算した二万一七六四円について

原告に帰属する次の名義の普通預金の利息が原告の申告では計上もれであったので、加算した。

(一) 中部相互銀行富士宮支店普通預金畑健三名義

昭和四四年三月七日 九三三一円

(二) 同支店普通預金山本源三名義

昭和四四年九月一一日 一万二四三三円

4  「損金-売上原価-仕入」について減算した一九五五万五七一四円について

別表三の〈B〉欄記載の物件以外の土地は原告設立前に売却したものであるから、その分の売上原価を減算した。すなわち、一番堀団地の土地の総坪数は二五〇七・〇六坪であり、土地仕入代金及び宅地造成費用総額は二九〇八万一八五二円であるところ、本件係争年度の損益に計上すべき分譲土地は八二一・二二坪であるから、その余の一六八五・八四坪の売上原価〈省略〉を減算した。

5  「損金-売上原価-仕入」について加算した四七七万一〇〇〇円について

山宮の山林について原告は仕入代金を二五六二万九〇〇〇円と申告したが、被告は当初原告と仕入先の富士林業開発株式会社(代表取締役赤池正一、以下「富士林業」という。)との間で作成された売買契約書により右金額を認容した。しかしながら、真実の仕入代金は次の理由により反当り八〇万円、総額三〇四〇万円と認むべきであるから、四七七万一〇〇〇円を加算した。

(1) 原告〓昭和四四年七月一六日富士林業に対し手付金として三〇〇万円を支払っているが、これは三〇四〇万円のほぼ一割に当たる。

(2) 原告が作成した当初の「物件案内」に記載されている価額が反当り八〇万円である。

(3) 山宮の山林の売主である富士林業は、その前主である大本正志から反当り七〇万円で購入している。

6  「損金-売上原価-期末棚卸高」について減算した九九万七七三八円について

原告は本件係争年度の決算にあたり、売上原価は期中の土地取得費及び造成費用を仕入として計上し、決算期末までに分譲されていない土地を期末棚卸資産として決算修正する方法で計算している。被告は一番堀団地の分譲土地の売上原価の計算にあたり、本件係争年度中に実現した売上に対応する原価を売上原価として損金に算入する方法により計算したので、一番堀団地の未分譲土地を期末棚卸資産として計上する必要がないことになる。

そこで、原告が計上した一番堀団地の土地の期末棚卸資産九九万七七三八円を減算した。

7  「損金-経費-支払手数料」について加算した一四七〇万円について

山宮の山林の売却について原告が支払った手数料は、太洋不動産商事株式会社(代表取締役甘粕四郎、現在の名称太洋地所株式会社、以下「太洋」という。)に対し三八〇万(但し、この金額には、原告が富士林業に手形二通を含めて代金の一部しか支払っていない時点で原告代表者名義に所有権移転登記を経由することができたことに対する謝礼として富士林業に支払った手形二通の利息相当分五〇万円を、太洋に負担させる趣旨も含まれているので、実質的には三三〇万円)、東興産業株式会社(代表取締役山中松治郎、以下「東興」という。)・富士物産株式会社(以下「富士物産」という。)グループに三〇四万円、高橋洋・黄金井可郎グループに七八六万円、合計一四七〇万円であり、右支払手数料が原告の申告では計上もれであったので加算した。

8  「損金-経費-支払利息」について減算した五〇万円について

山宮の山林を原告と共同購入した太洋は、原告に対し手形一五〇〇万円、現金五〇〇万円、合計二〇〇〇万円を交付していたが、共同購入者であることを秘匿していたため税務上不自然と思われるのを考慮して、右二〇〇〇万円を原告に対する前払金、五〇万円を謝礼金として計上するとともに、原告に対しても右操作に合わせるよう要求したので、原告は右二〇〇〇万円を太洋からの借入金、五〇万円を支払利息として計上した。したがって、右五〇万円は実際には支出されていないのであるから減算した。

9  「損金-雑損失」について減算した七三万二〇〇〇円について

原告の代表取締役深沢優が昭和四四年八月二五日富士宮市内において自動車事故をおこし、原告において、被害者富士宮市平垣本町九-三〇浅井電気店に対し、店舗及び商品の損害賠償金として七三万六〇八〇円を支払った。

右賠償金のうち原告が雑損失に計上した七二万二〇〇〇円は、本件係争年度末において原告が支払いを受ける自動車保険金の収入金額が確定していなかったので、未決算勘定(仮払金勘定)として資産計上すべきであり、本件係争年度の損金に計上すべきでないので否認した。

以上のとおり原告の本件係争年度の所得金額は一〇二九万九三六七円であるから、その範囲内でされた本件更正及びこれを前提とする本件決定に違法はない。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告の主張に対する認否

被告主張第三の二の1.2.3.4.6.8.9.記載の事実はすべて認める。5記載の事実は争う。7記載の事実のうち、東興、富士物産に合計三〇四万円、高橋洋と黄金井可郎に合計七八六万円を支払ったこと、太洋に手数料を支払ったことは認めるが、太洋に支払った手数料の額は争う。

二  原告の反論

1  被告主張第三の二の5「損金-売上原価-仕入」について

(一) 一番堀団地の仕入価額

一番堀団地の土地は、原告代表者深沢優が個人企業時代の昭和四二年一二月に牧浦尚平から代金二〇〇〇万円で買受けたものであるが、売買の仲介に当った渡辺満司及び野村進午の要望で、売買契約書には代金として一四〇〇万円と記載した。したがって、その差額六〇〇万円のうち、一番堀団地の総坪数二五〇七・〇六坪に対する本件係争年度の分譲土地八二一・二二坪の分〈省略〉を仕入金額として加算すべきである。

(二) 山宮の山林の仕入価額

山宮の山林の仕入価額は反当り八五万円、総額三二二一万五〇〇〇円であるから、申告額に六五八万六〇〇〇円を加算すべきである。その根拠は次のとおりである。

(1) 原告は売主の富士林業に対し山宮の山林の仕入代金として、昭和四四年七月一六日手付金として三〇〇万円、同月下旬太洋が拠出した現金五〇〇万円(このうち二五〇万円は東興が拠出して太洋に預けたもの)、太洋振出の約束手形一五〇〇万円、原告が拠出した現金九二一万五〇〇〇円、合計三二二一万五〇〇〇円を支払った。

(2) 売買契約書には代金額が二五六二万九〇〇〇円と記載されているが、実際には、原告は富士林業に対し、右金額のほか裏金として簿外金六〇〇万円、手形二通を含む代金の一部支払いで原告代表者名義に所有権移転登記を経由したことに対する謝金として五〇万円、更に若干の契約費用を加算した三二二一万五〇〇〇円を支払った。

(3) 富士林業は山宮の山林の前主である大本正志に対し、昭和四四年七月一六日に三〇〇万円、同月二二日に七〇〇万円、同月三一日に富士宮信用金庫から融資を受けた二〇〇〇万円、合計三〇〇〇万円を支払った。ところで、富士林業は帳簿上原告からの受領代金額を二五六二万九〇〇〇円と計上し、大本への支払額を二二六〇万円と計上しているから、帳簿上富士林業の利益は三〇二万九〇〇〇円となる。してみれば、原告は現実に富士林業が大本に支払った三〇〇〇万円と帳簿上の利益三〇二万九〇〇〇円の合計三三〇二万九〇〇〇円を若干下まわる金額である三二二一万五〇〇〇円を富士林業に支払ったものと考えることには合理性がある。

2  被告主張第三の二の7「損金-経費-支払手数料」について

山宮の山林の売却について原告が支払った手数料は、東興・富士物産グループに三〇四万円、高橋・黄金井グループに七八六万円であることは被告主張のとおりであるが、太洋には七一〇万円であり、以上のほか東興の社員阪田芳に対し五〇〇万円支払った事実が認められないとすれば、支払手数料の合計は一八〇〇万円である。

第五原告の反論に対する被告の認否

原告の反論1記載の事実はすべて争う。原告の反論2記載の事実のうち、太洋に対する支払手数料が七一〇万円、阪田芳に対するそれが五〇〇万円であることは争う。

第六証拠関係

一  原告

1  甲第一号証、甲第二号証の一、二、甲第三ないし第七号証、甲第八号証の一ないし四、甲第九号証の一、二、甲第一〇ないし第二一号証

2  証人本庄新平、同高橋洋、同津村幸次、同小沢洋、原告代表者本人

3  乙第三号証の一、二、乙第四号証、乙第六ないし第一〇号証、乙第一二ないし第一六号証、乙第一九号証、乙第三二号証の一ないし三、乙第三六号証、乙第三八号証、乙第四〇ないし第四四号証の成立をいずれも認める。乙第一、第二号証、乙第五号証、乙第一一号証、乙第二〇号証、乙第二八号証、乙第三〇、第三一号証はいずれも原本の存在・成立ともに認める。乙第三四、第三五号証、乙第三七号証、乙第三九号証の成立はいずれも知らない。乙第一七号証の一、二、乙第一八号証、乙第二一ないし第二七号証、第二九号証、乙第三三号証はいずれも原本の存在・成立ともに知らない。

二  被告

1  乙第一、第二号証、乙第三号証の一、二、乙第四ないし第一六号証、乙第一七号証の一、二、乙第一八ないし第三一号証、乙第三二号証の一ないし三、乙第三三ないし第四四号証

2  証人鈴木伸

3  甲第一号証、甲第六号証、甲第九号証の一、甲第一〇ないし第二一号証の成立はいずれも認める。甲第七号証は原本の存在・官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。甲第八号証の一は官公署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。その余の甲号各証の成立はいずれも知らない。

理由

一  請求原因一の事実については、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件更正は被告の過大認定であって違法であり、したがって、また、本件更正を前提としてされた本件決定も違法である旨主張するので、この点について判断する。

本件係争年度における原告の益金について及び損金のうち「売上原価中の仕入の金額」及び「経費中の支払手数料の金額」を除く部分については、当事者間に争いがない。そこで、「売上原価中の仕入の金額」及び「経費中の支払手数料の金額」について、順次検討する。

1  「損金-売上原価-仕入」の金額のうち、一番堀団地の土地の仕入価額について

成立に争いのない甲第一〇号証ないし甲第二一号証によれば、次の事実が認められる。すなわち、昭和四二年一〇月ころ、原告代表者深沢優は個人で土地を購入して宅地造成して売却することにより利益を得ようと企図して、静岡県知事に対し登録している不動産仲介業者の野村進午に土地購入と宅地分譲の実務を依頼したところ、野村は知人の渡辺満司に購入土地の紹介を依頼し、渡辺は大阪市在住の牧浦尚平が一番堀団地の土地の売却を富士宮市の不動産取引業者ふじやま商事に委託していることを知って、原告代表者に右土地を紹介し、その結果、原告代表者の代理人である右渡辺と牧浦尚平の代理人であるふじやま商事の岸某とは、昭和四二年一二月二二日牧浦を売主とし、原告代表者を買主とし、代金を二〇〇〇万円とし、支払期日を契約成立日及び昭和四三年二月六日とする右土地の売買契約を締結した。原告代表者は昭和四二年一二月中に六〇〇万円、昭和四三年二月六日に一四〇〇万円を渡辺満司に交付し、渡辺は岸某に右各金員を交付し、岸某は右金員中一八〇〇万円を牧浦尚平に交付した。原告代表者が渡辺に交付した二〇〇〇万円と牧浦尚平が現に交付を受けた一八〇〇万円との差二〇〇万円については、前認定の売買の経緯から、仲介者である渡辺及び岸某が仲介手数料として取得したものと推認するのが合理的である。してみると、原告代表者が右土地の購入に要した費用は二〇〇〇万円と認めるのが相当であり、売買代金につき一四〇〇万円との記載のある乙第一〇、第一一号証はいずれも措信できない。よって、一番堀団地の土地の仕入代金として被告が主張する一四〇〇万円と前認定額二〇〇〇万円の差六〇〇万円のうち、右土地の総坪数二五〇七・〇六坪に対する本件係争年度の分譲坪数八二一・二二坪の割合を乗じた一九六万五三七八円を仕入金額として加算するのが相当である。

2  山宮の山林売買の経緯について

原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証の一、二、証人小沢洋の証言により真正に成立したと認められる甲第五号証、同証言により原本の存在・成立ともに真正と認められる甲第七号証、成立に争いのない乙第六ないし第九号証、乙第一二、第一三号証、乙第三二号証の一ないし三、乙第三六号証、乙第四〇号証、乙第四二号証、弁論の全趣旨により原本の存在・成立ともに真正と認められる乙第二一ないし第二三号証、証人本庄新平、同高橋洋、同津村幸次の各証言、原告代表者本人尋問の結果を総合すれば、山宮の山林売買の経緯は次のとおりであったことが認められる。

原告代表者深沢優は、原告設立前の昭和四三年六月ころ富士林業から山宮の山林の売却(価額は反当り八〇万円)の仲介を依頼され、そのころ同人が取扱っていた他の土地と共に土地の情報を記載した「物件案内」と題する文書に山宮の山林の所在地、面積、現状、価額(反当り八〇万円)等を記載して、同人の取引先である太洋等に配布したところ、太洋の子会社である東興の社員阪田芳が富士物産の社員相原勤に、相原が同じく富士物産の社員津村幸次に、津村が厚木市で高橋商事の名で不動産業を営む高橋洋に、高橋が同市で石材店を営む黄金井可郎に順次山宮の山林の所有者が売却を希望している旨伝え、黄金井がかねてから東急不動産に転売するため土地購入を希望していた横浜市の斎藤元春にその旨伝えたところ、同人は昭和四四年五月ころ津村、黄金井の案内で山宮の山林を見て購入の意思を持ったが、登記上の所有者名義人が未だ渡辺重忠となっていたため、売主である原告代表者(当時斎藤は売主を原告代表者であると考えていた。)名義でなければ購入しない旨黄金井に述べた。原告は太洋の社員土居温から斎藤元春の意思を伝え聞き、同年七月一六日富士林業に対し山宮の山林を買入れる旨申込んだうえ、同日手付金三〇〇万円を交付した。同月二二日ころ原告と太洋とは買主を原告代表者名義として山宮の山林を共同購入し、太洋は仕入代金として、約束手形額面一五〇〇万円及び現金五〇〇万円を拠出し、販売利益は協議のうえ合理的に分配する旨の契約を締結し、同日太洋は約束手形額面一五〇〇万円及び現金五〇〇万円(このうち二五〇万円は東興が拠出した。)を原告に交付し、原告は直ちに富士林業に対し、右約束手形額面一五〇〇万円及びその額は明確でないが太洋から交付された現金五〇〇万円に自己資金を加えた額の現金を仕入代金として支払い、同月二六日原告代表者名義に所有権移転登記を経由した。同月三一日原告は斎藤元春と串田明久との間で、山宮の山林のうち別紙目録13の物件につき買主を右斎藤の長男斎藤清とし、別紙目録2の物件につき買主を斎藤元春の二女の夫串田明久とし、代金を五六五〇万円とする売買契約を締結し、同日手付金として斎藤元春及び串田明久から小切手で二〇〇〇万円の交付を受け、同年八月二日右売買の約旨に従い、斎藤清及び串田明久のために右山林の所有権移転請求権仮登記を経由した。

3  「損金-売上原価-仕入」の金額のうち、山宮の山林の仕入価額について

(一)  被告主張の仕入価額について

被告は山宮の山林の仕入価額を反当り八〇万円、総額三〇四〇万円と主張し、その理由として、第一に、原告が昭和四四年七月一六日に山宮の山林の売買代金の手付金として富士林業に三〇〇万円を支払ったことを挙げている。原告が富士林業に手付金三〇〇万円を支払ったことは前認定のとおりであるが、世上土地売買において手付金額が売買代金額の一割であること、したがって前者の一〇倍が後者であるのが通例であるとは必ずしもいい難いから、右のような理由によって前記山林の仕入価額を推論することはその根拠が十分でないといわなければならない。次に被告は、「物件案内」に右山林の価額を反当り八〇万円と記載したことを挙げている。深沢優が原告設立前の昭和四三年六月ころ土地の情報を記載した「物件案内」に右価額を反当り八〇万円と記載したことは前認定のとおりであるが、原告が富士林業と売買契約をしたのが昭和四四年七月であることは前認定のとおりであるから、右契約は「物件案内」の掲載から一年を経過していることになる。ところで、当時の一般的な土地価額の推移に鑑みれば、右売買契約の際、富士林業が一年前と同じく反当り八〇万円で売却する意思を維持していたものと即断することはできないから、右の「物件案内」の記載を根拠に前記仕入価額を推論することは必ずしも合理的とはいえない。更に被告は、富士林業が前主の大本正志から反当り七〇万円で購入し、原告に八〇万円で売却することにより反当り一〇万円という適正な利益を得ることになることを挙げている。しかしながら、富士林業が木本から購入した代金額が反当り七〇万円であるとの証拠はないから、この主張にも根拠がない。以上のとおりであるから、山宮の山林の仕入代金が反当り八〇万円、総額三〇四〇万円であるとの被告の主張はにわかに首肯できない。

(二)  原告主張の仕入価額について

証人本庄新平の証言により真正に成立したと認められる甲第三、第四号証、証人本庄新平、同高橋洋、同津村幸次の各証言、原告代表者本人尋問の結果を総合すれば、昭和四三、四四年ころ、富士宮市周辺の土地の売買においては、登記上の所有名義人から実質上の買主に所有権が移転する間に不動産仲介業者が介入し、介入した業者間で順次売買がなされ、業者は売買差益金の名目で仲介手数料を取得するが、このような場合業者は税金対策のため売買契約書を作成せず、また、代金の一部を記帳せず簿外金として処理する場合も少なからずあったことが認められ、山宮の山林の売買においても原告から実質上の買主である斎藤、串田に所有権が移転する間に、東興、富士物産、高橋等が介入していたことは前示のとおりである。また前掲乙第三二号証の一ないし三によれば、山宮の山林は渡辺重忠から原告代表者に所有権移転登記が経由されていることが認められるが、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告に対する売主は富士林業であり、原告と富士林業との売買契約においては契約書の作成はなされなかったことが認められる。そこで、原告と富士林業との間の山宮の山林売買の代金について検討すると、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第十七号証の二によれば、富士林業の現金出納帳には昭和四四年七月に原告から合計二五六二万九〇〇〇円入金があった旨記載されていることが認められ、成立に争いのない乙第四号証によれば、富士林業代表者赤池は税務職員の調査を受けた際、原告から山宮の山林の代金として二五六二万九〇〇〇円を受取った旨述べていることが認められるが、前認定の事情を考慮すると、右のほかに簿外金があったものと推認するのがむしろ合理的であり、前掲甲第三号証、証人本庄新平の証言によれば、原告から斎藤・串田に所有権が移転する間に仲介にあたった不動産業者にグループごとにそれぞれ六〇〇万円の簿外金が計上されていたことが認められるから、原告と富士林業との間にも六〇〇万円の簿外金があったと推認するのは必ずしも不合理とはいえない。また、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告が富士林業に対し代金の一部にかえて交付した太洋の約束手形額面一五〇〇万円の決済前の昭和四四年七月二六日に、原告代表者名義に所有権移転登記が経由されたことに対し、原告は謝礼として富士林業に右手形決済までの利息相当分五〇万円を支払ったことが認められる。してみると、山宮の山林の仕入価額は、帳簿上の額二五六二万九〇〇〇円、簿外金六〇〇万円、謝礼金五〇万円、合計三二一二万九〇〇〇円に若干うわのせした三二二一万五〇〇〇円であるとの原告の主張は必ずしも不合理ではない。

次に、山宮の山林の仕入代金の資金について検討してみると、太洋が右資金として二〇〇〇万円を拠出したことは前認定のとおりであり、また、成立に争いのない乙第一六号証によれば、原告は昭和四四年六月五日から七月一四日までの間に、川村貞義らに対し合計一三七五万二三一四円相当の土地を売却したことが認められるから、原告は当時仕入代金の一部を拠出しうる能力を有していたものと認めることができ、前掲乙第二一ないし第二三号証によれば、原告は昭和四四年七月一六日から二二日までの間に、原告、原告代表者、原告代表者の別名である山本源三の各名義の銀行預金口座から合計七五〇万円を払戻していることが認められ原告は以上の資金を山宮の山林の仕入代金に当てたものと推認することができるほか、前掲乙第四〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三九号証によれば、原告は仕入代金のうち五〇〇万円については現金を支払わず、原告振出の約束手形額面五〇〇万円をもってこれに当てたものであることが認められる。なお、被告は、原告が昭和四四年七月一六日に支払った手付金三〇〇万円について、高橋洋が拠出した三八〇万円の一部をあてたものと主張するが、高橋が原告に対し三八〇万円を拠出したとの証拠はないから、右主張は認めることはできない。

更に、成立に争いのない乙第一三号証、乙第三六号証、乙第四〇号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、名古屋国税不服審判所審判官に対する陳述においても、清水税務署長宛上申書においても、原告代表者の作成した反論書においても、原告代表者本人尋問においても、一貫して、山宮の山林の仕入価額が三二二一万五〇〇〇円であると主張し(但し弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三九号証によれば、原告代表者が三三〇〇万円と述べている部分もある。)ていることも十分に考慮されなければならない。

(三)  以上のとおり原告と被告の主張の当否を検討してみると、被告の主張は根拠に乏しく、むしろ原告の主張に合理性があると認められるから、山宮の山林の仕入価額は三二二一万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

4  「損金-経費-支払手数料」について

(一)  前掲甲第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二四ないし第二七号証、乙第三四、第三五号証、乙第三七号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、山宮の山林の買主の斎藤・串田は昭和四四年七月三一日原告に対し、手付金として三井信託銀行(横浜駅西口支店)を支払人とする額面五〇〇万円の小切手ほか三通合計二〇〇〇万円の先日付小切手を交付し、原告は右小切手を富士林業代表者赤池に同日交付したこと、赤池は同日右小切手四通を担保として富士宮信用金庫本店から同年八月六日を弁済期として二〇〇〇万円を借受け、同日これを木本正志の預金口座に入金したことがいずれも認められ、原本の存在・成立ともに争いのない乙第三〇号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、前記各小切手が決済された同年八月六日に富士林業から太洋の前記約束手形額面一五〇〇万円の返還を受け、同月一〇これを太洋に返還したことが認められる。また、残余の五〇〇万円については、富士林業が阪田芳或いは原告に交付した事実を認めるべき証拠はなく、また、原告は山宮の山林の仕入代金の支払のために原告振出の約束手形を交付したのみで五〇〇万円は現実にはいまだ未払であることは前認定のとおりであるから、仕入代金の未払分五〇〇万円に充当されたものと推認するのが合理的である。更に、前掲甲第号証、乙第三七号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は同年八月二九日斎藤・串田から残代金三六五〇万円を六〇〇万円は現金で、三〇五〇万円は小切手で受領したことが認められ、前掲乙第二一号証、乙第三六号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は同日現金六〇〇万円を太洋に交付し、小切手三〇五〇万円は銀行で現金化したうえ同年九月二日に一三五〇万円を中部相互銀行富士支店の山本源三名義の普通領金口座に入金し、一七〇〇万円を太洋に交付したことが認められる。そこで、原告が太洋に交付した合計二三〇〇万円につき検討すると、原本の存在・成立ともに争いのない乙第三一号証、原告代表者本人尋問の結果によれば、太洋は五〇〇万円を同年七月二二日に仕入代金として拠出した現金五〇〇万円の弁済として充当したことが認められるので、残余の一〇〇万円が仲介手数料に充てられたものと解するが相当である。

(二)  そこで、現実の仲介手数料の配分先と金額について検討する。

前掲甲第三、第四号証、証人高橋洋、同本庄新平、同津村幸次の各証言、原告代表者本人尋問の結果を総合すると、太洋の専務取締役本庄新平は、仲介手数料の配分方式として次のとおりの形式をとることを案出したことが認められる。すなわち、山宮の山林の所有権は、当時の登記上の所有名義人渡辺重忠から、木本正志、原告太洋、東興、富士物産、黄金井、高橋を順次経て斎藤・串田に移転した形とし、原告と太洋、東興と富士物産、黄金井と高橋はそれぞれ一グループとみなすこととし、原告・太洋は東興・富士物産に反当り一二〇万円、合計四五六〇万円、そのうち六〇〇万円は簿外金として売却したこととし、高橋・黄金井は斎藤・串田に反当り一四八万五〇〇〇円、合計五六五〇万円、そのうち六〇〇万円は簿外金として売却したこととし、東興・富士物産は買受代金四五六〇万円と売却代金四八六四万円との差額三〇四万円を、高橋・黄金井は買受代金四八六四万円との売却代金五六五〇万円との差額七八六万円をそれぞれ仲介手数料として取得するとの方式がそれであった。そして、現実に東興・富士物産が三〇四万円、高橋・黄金井が七八六万円を仲介手数料として取得したことは当事者間に争いがない。

次に太洋が取得した手数料について検討すると、原告が太洋に現金二三〇〇万円を交付し、そのうち五〇〇万円は太洋が拠出した仕入代金の弁済に充当され、三〇四万円は東興・富士物産に、七八六万円は高橋・黄金井に仲介手数料として支払われたことは前認定のとおりであるところ、太洋が以上のほかに原告に対して現金を返還した事実は全証拠によっても認めることはできないから、右二三〇〇万円から、前記仕入代金や支払手数料を差引いた残金七一〇万円はすべて太洋が自らの仲介手数料等として取得したものと解するほかはなく、被告主張のように太洋の取得した仲介手数料が三八〇万円にとどまるものと認めることはできない。

(三)  右のとおり、山宮の山林の売却についての支払手数料の総額は、被告の計上した合計一四七〇万円に太洋に対する手数料三三〇万円を加算した一八〇〇万円であると認められる。

5  原告の本件係争年度の所得について

そうすると、原告の本件係争年度の所得金額は、別表四のとおり三二一万八九八九円であるから、本件更正のうち所得金額三二一万八九八九円を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件決定のうち右所得金額を超える部分に対応する部分は違法である。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、本件更正及び本件決定のうち所得金額三二一万八九八九円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松岡登 裁判官 紙浦健二 裁判官 稲葉耶季)

別表一

〈省略〉

別表二

〈省略〉

別表三

「一番堀団地」の売上金額について

〈省略〉

別表四

〈省略〉

目録

1 富士宮市山宮宇野畔三七六〇番四〇

一 山林    二七、三八一平方メートル

2 同所同番 四四

一 山林    八、五九八平方メートル

3 同所同番 四五

一 山林    一、六五九平方メートル

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